超合理的高校生の3年間 -社会の歯車が高校生に転生!?-
【第4話 2回目の高校デビュー】
「お世話になりました。」
そう言って、俺は看護師と担当医に頭を下げ、病院を後にした。
8月ももう終わりを迎え、スーパーマーケットには夏物がセール品として売り出されていた。
「ただいま~、どう?何か思い出せそう?」
「いや…何も…でも何か懐かしい感じがする」
本心では全く何も懐かしくはない。
田所正光として生きていくと決めたからには、これぐらいの心遣いはあったっていいだろう。
俺は優子に案内され、正光の部屋をのぞいた。
恐ろしいほどに整理された部屋…というか、物が少ない気がする。
「これ母さんが掃除したの?」
「掃除はいつも正光、あなたがやっていたのよ」
「そうなのね…きれいにしてて何よりだ…」
正光は潔癖症だったりするのだろうか。いや、それをも凌駕してる。
もしかして、自分がこうなることを見越してたのか。
だとすると、この部屋には正光がどういう人物かを知るようなものは、
すでに正光自身の手によって、処分されているかもしれない。
「あ、そうだ。そろそろ髪でも切りに行きなさいよ。もうすぐ始業式でしょ。」
「…ああ、そうだね。切りに行こうかね」
入院してから伸ばしっぱなしだったので、優子が俺にそう促した。
ーーーーー9/1 高校1年生・2学期ーーーーー
「ぉぁょ~うざいまーす」
俺は「1-4」の教室の扉を開き、そう挨拶をした。
教室内にいたクラスメートだろうが、一斉にこっちを見る。
…あ、挨拶、おじさんっぽすぎたか?やる気のない出社時の挨拶の癖がこんなとこででるなんて。
さらに教室はザワザワしだした。
…え、なんかしちゃいました?
「はーい、みなさん席に着いてください。出席をとります。田所君は私の隣にいなさい。」
そう生徒に指示を出す30代前半の若い男性は、このクラスの担任の小野寺誠(おのでら・まこと)だ。
「出席を取る前に、田所君についてお話がございます。田所君ですが、今までの記憶をなくしております。」
また、教室がざわつきだした。そりゃそうだ、記憶喪失だぞ。
「静かに、そういうことなので、みなさんショックもあるでしょうが、また改めて、友達として迎え入れてあげてください。」
「えー、田所正光です。アイスブレイクといたしまして、最近ですがコンビニのスイーツにハマりまして、いますごいですね、洋菓子店と変わらないクオリティなんですね。なんで今まで食べてこなかったんだろうって後悔しちゃいました。みなさんもおススメのスイーツありましたら教えてください、以上です。よろしくお願いします。」
…
またまた、ざわつきだした。
つい社内のミーティングのアイスブレイク風に話してしまった。しかも、転生してからコンビニでめったに買わないスイーツを買って食べたときの感動を思い出して、結構前のめりで話してしまった。
やばい、社交的なおじさんみたいなやつが来たと思われたかもしれない。
「…え、別人じゃん」
バレた
「…記憶喪失って、人格も変えるの?」
高校デビュー失敗してしまった。しかも2回目の高校デビューなのに失敗は恥ずかしい。
「…はい、田所君。丁寧なあいさつありがとう。君の席はあそこだよ。」
うわ、先生まで引いてるじゃん。マジかよ。
「どうも、よろしく。」
俺は窓際の席に案内され、席に着き右隣のイカにも高校デビューしましたって感じの女子、岡崎美里(おかざき・みさと)に軽く挨拶した。
「ねえ本当に記憶ないの?なんでなくなったの?」
美里はデリカシーのかけらもなく、ぐいぐい聞いてくる。
「ごめん、本当に全然覚えていないんだ。」
「フーン、てかその髪どうしたの?」
「え、別にいつも通りだけど」
「いつも通りなわけ、今までのアンタは前髪が目にかかるほど長かった。でも今は短髪、そういうのなんていうの?ツーブロ?」
「…あ」
ここで思い出した。この髪型は俺のいつも通りであって、正光のいつも通りなわけない。わざわざ転生前に通っていた美容室に予約入れて切ったからな。
それでいつも通りって…またミスった。
これ、田所正光として生きるより、俺のまま生きた方が楽なのでは???
===To Be continuity===