超合理的高校生の3年間 -社会の歯車が高校生に転生!?-
【第6話 片鱗】
周囲からの視線に耐えかねた俺は、手を挙げて代表者として立候補した。
「ほかに手を挙げる人がいないなら、田所君に任せようと思います。」
そう山本が進行すると、俺のほかに手を挙げる者は誰もいなかった。
「では、田所君よろしくお願いします。田所君には発表するにあたっての準備とかを話したいので、放課後残ってください。」
ーーー5限目終了のチャイムが鳴るーーー
放課後、俺は山本と教室に残り、発表者として次の説明を受けた。
・発表者は発表日の1週間前に企画書を提出すること
・発表時間は準備含めて5分
・基本的にプレゼンのスタイルは何でも良い(衣装を用いたり、ホワイトボードを用いたりなど)
・共通で教室レイアウト用に模造紙1枚配布される
「…というわけで、田所君。まずは企画書の作成からになるね。これが去年の例だって、資料もらってきたよ。」
「ありがとう、参考にするよ」
俺はそう言い、山本から昨年度の企画書の資料をもらい、目を通した。
記載内容といえば、企画名、コンセプト、当日までの流れと工夫点といった感じだ。
正直、1日あればこんなものはざっと書き終えられるだろう。
「ちなみに、山本君…だっけか。この企画書は誰が見るの?」
「あーこの企画書は、そのままコピーされ、全文化祭委員に手渡されるみたい。プレゼン時の参考資料にするらしいよ。」
「なるほどね…」
この企画書がそのまま審査員になるってわけね。ただ文章を書き連ねても勝機はないってことか。
俺の頭の中では、すでに発表へのプランはできていた。しかし、遂行に必要なカギは『コンセプト』である。『コンセプト』をあのクラス内でどう詰めていくか。
そこが俺にとっての課題だった。
ーーー翌日ーーー
「あ、山本…君。企画書、一応書けるとこ埋めてみたんだけど、チェックしてもらえるかな。」
俺は翌朝、山本に作成した企画書を提出した。正直、同級生なので呼捨てで呼びたいが、まだ距離がある。
「お、早いね。休み時間とかに見てみるよ。」
ーーー放課後ーーー
「田所君、確認したよ。結構しっかりかけてるし、しかも企画書自体に装飾入れているのも、ポイント高い気がする。絶対、目に留まるよ。あとは、『コンセプト』だね。」
「ああ…俺も『そこ』だと思ってるんだけど、どこかでクラスみんなで集まるような時間ても取れないのかな…」
と俺はダメ元で山本に聞いた。
「うーん、小野寺先生に相談してみるしかないかも…」
そうか、小野寺先生がいた。そこにかけ合わせてみるか。
「ありがとう!山本!」
「…あ、うん! …田所君ってあんなにアグレッシブだったっけ?」
俺は職員室にいる小野寺先生に声をかけた。
===To Be continuity===
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【第5話 洗礼】
「えー5時限目は、来月末に開催予定となっている文化祭の出し物を考えてる時間にします。では、この後の進行はクラスの文化祭委員の2人、山本と西田に任せる。」
小野寺先生はそう言って、教室を後にした。
「では、1-4の出し物について、決めていきたいと思います。出し物を決めるにあたって、注意事項のプリントもらったので、みんなに配ります。」
そうハキハキとした喋りと司会進行をするのは、このクラスで身長が一番高い山本司(やまもと・つかさ)だ。高身長だからバスケ部やバレー部に所属するかと思いきや登山部に入部したときは校内でざわついたという。
本人曰く幼少期から家族で登山に出掛けていた経験から入部したとのこと。
まあ、登山で鍛えられた肺活量なのか、良い声がよく通る。
それに対し、隣で明らかにダルそうにしているのが、もう一人の文化祭委員の西田アリス(にしだ・ありす)である。つい最近、手入れしたばっかの爪を見ながら立っている。
山本が配布したプリントもとに文化祭の出し物に関する注意事項を説明する。
注意事項の内容はこうだ。
≪注意事項≫
・文化祭でクラスで出店できるのは以下の3種類の限りとする。
①飲食店(調理含む)、②お化け屋敷、③模擬店(①②を除く内容)
・①②の出店には、各学年1クラスまでとする。
・①②の出店の候補が同学年で複数クラス上がった場合は、プレゼンテーションを実施し、安全性、独自性を含め、全文化祭委員が総合的に判断し、決定する。
・プレゼンテーションの発表者は文化祭委員以外の代表者とする。
・①のみ金銭のやり取りが可能。②③は金銭のやり取りは禁止とする。
・各クラスの予算は5万円までとする。
山本の説明が終わる間もなく、クラスはざわつきだした。
飲食店やお化け屋敷の出店に制限があるということだ。まあこの制限は、理にかなっている。この制限がなければ、全てクラスがお化け屋敷の出店をするカオスな状態が生まれかねないからだ。
「まあ出店に上限があるのは、置いといて3種類のうちどれがいいか、多数決をとります。それじゃ飲食がいい人……」
クラス内で多数決が始まった。クラスメイトは各々自分がやりたいものに手を挙げる。
その結果、お化け屋敷がクラスの希望するものとなった。
「…はい。みんなありがとうございます。うちのクラスでは、お化け屋敷を第一希望として決まりました。おそらく、プレゼンテーションになるかと思うので、今のうち発表者決めたいと思います。誰かやれる人いますか。」
山本が声をかけた。しかし、そんな重荷を誰も背負いたくはない。手を挙げるものは誰もいなかった。
すると、どこからか小声で
「…田所でよくね。」
「ああ…田所なら失敗しても責めやすいもんな…」
「田所?…正気かよ。落とす気かよ。」
「この前の挨拶やばかったんじゃん。あれならワンチャンいけるんじゃね。」
声の主はわからないが、明らかに俺に田所正光になすりつけようとしている。
クラスの視線が俺に集まる…
…はあ、やるか。
俺はすっと右手を挙げた。
「俺、やろっか?」
===To Be continuity===
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【第4話 2回目の高校デビュー】
「お世話になりました。」
そう言って、俺は看護師と担当医に頭を下げ、病院を後にした。
8月ももう終わりを迎え、スーパーマーケットには夏物がセール品として売り出されていた。
「ただいま~、どう?何か思い出せそう?」
「いや…何も…でも何か懐かしい感じがする」
本心では全く何も懐かしくはない。
田所正光として生きていくと決めたからには、これぐらいの心遣いはあったっていいだろう。
俺は優子に案内され、正光の部屋をのぞいた。
恐ろしいほどに整理された部屋…というか、物が少ない気がする。
「これ母さんが掃除したの?」
「掃除はいつも正光、あなたがやっていたのよ」
「そうなのね…きれいにしてて何よりだ…」
正光は潔癖症だったりするのだろうか。いや、それをも凌駕してる。
もしかして、自分がこうなることを見越してたのか。
だとすると、この部屋には正光がどういう人物かを知るようなものは、
すでに正光自身の手によって、処分されているかもしれない。
「あ、そうだ。そろそろ髪でも切りに行きなさいよ。もうすぐ始業式でしょ。」
「…ああ、そうだね。切りに行こうかね」
入院してから伸ばしっぱなしだったので、優子が俺にそう促した。
ーーーーー9/1 高校1年生・2学期ーーーーー
「ぉぁょ~うざいまーす」
俺は「1-4」の教室の扉を開き、そう挨拶をした。
教室内にいたクラスメートだろうが、一斉にこっちを見る。
…あ、挨拶、おじさんっぽすぎたか?やる気のない出社時の挨拶の癖がこんなとこででるなんて。
さらに教室はザワザワしだした。
…え、なんかしちゃいました?
「はーい、みなさん席に着いてください。出席をとります。田所君は私の隣にいなさい。」
そう生徒に指示を出す30代前半の若い男性は、このクラスの担任の小野寺誠(おのでら・まこと)だ。
「出席を取る前に、田所君についてお話がございます。田所君ですが、今までの記憶をなくしております。」
また、教室がざわつきだした。そりゃそうだ、記憶喪失だぞ。
「静かに、そういうことなので、みなさんショックもあるでしょうが、また改めて、友達として迎え入れてあげてください。」
「えー、田所正光です。アイスブレイクといたしまして、最近ですがコンビニのスイーツにハマりまして、いますごいですね、洋菓子店と変わらないクオリティなんですね。なんで今まで食べてこなかったんだろうって後悔しちゃいました。みなさんもおススメのスイーツありましたら教えてください、以上です。よろしくお願いします。」
…
またまた、ざわつきだした。
つい社内のミーティングのアイスブレイク風に話してしまった。しかも、転生してからコンビニでめったに買わないスイーツを買って食べたときの感動を思い出して、結構前のめりで話してしまった。
やばい、社交的なおじさんみたいなやつが来たと思われたかもしれない。
「…え、別人じゃん」
バレた
「…記憶喪失って、人格も変えるの?」
高校デビュー失敗してしまった。しかも2回目の高校デビューなのに失敗は恥ずかしい。
「…はい、田所君。丁寧なあいさつありがとう。君の席はあそこだよ。」
うわ、先生まで引いてるじゃん。マジかよ。
「どうも、よろしく。」
俺は窓際の席に案内され、席に着き右隣のイカにも高校デビューしましたって感じの女子、岡崎美里(おかざき・みさと)に軽く挨拶した。
「ねえ本当に記憶ないの?なんでなくなったの?」
美里はデリカシーのかけらもなく、ぐいぐい聞いてくる。
「ごめん、本当に全然覚えていないんだ。」
「フーン、てかその髪どうしたの?」
「え、別にいつも通りだけど」
「いつも通りなわけ、今までのアンタは前髪が目にかかるほど長かった。でも今は短髪、そういうのなんていうの?ツーブロ?」
「…あ」
ここで思い出した。この髪型は俺のいつも通りであって、正光のいつも通りなわけない。わざわざ転生前に通っていた美容室に予約入れて切ったからな。
それでいつも通りって…またミスった。
これ、田所正光として生きるより、俺のまま生きた方が楽なのでは???
===To Be continuity===
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【第3話 課された宿命】
ーーーーーー
田所正光、15歳。今年の春から公立高校に通う高校1年生。
勉強も運動も平凡で普通の子であった。人に優しく接することが取り柄だったという。
しかし彼は、高校に入学してからというものの、どこか物思いに窓の外を眺めることが多かったと優子はいう。
「何回かあなたが学校へ行ってる間に、窓の外を私も眺めたんだけどね。そこには何か興味を引くようなものはなかったから、少し心配はしてたのよ。」
優子は正光に「何かあったの?」と聞いてみたものの
「大丈夫だよ」と笑って答えるばかりだった。
優子が気がかりに思っていた矢先だった。
夏休みのある日、優子がパートに出ていた時だった。
正光はどこからか入手した睡眠薬の過剰摂取でこの病院へ昏睡状態で運ばれたのだという。
そして、それから1週間目を覚まさなかったという。
ーーーーーー
「なるほど…」
俺は彼に学校生活で何かしらのトラブルがあったのではないかとにらんだ。
いや、俺に限らず優子も浩もそう考えているだろう。
「学校のことなんだけど…」優子は重い口を開く。
「一旦、通信制の学校に転校するのはどうかしら…」
俺は正直、転生したんだから、転生前と同じようにモニターの前でにらめっこするような生活はまっぴらだった。
それに優子と浩、2人もこの1週間は気が気でなかっただろうし、変な苦労をかけるのはどこか申し訳なかった。
俺には両親がいなかった。
俺が中学生のころ、両親は共に病で去った。
その後、俺には親戚はおらず、施設で育てられ、自立してエンジニアになった。
俺にはあの時出来なかった親孝行が後悔として残っているのだろう。だから、そんな風に2人を観てしまう。
「いいよ。転校しなくて、何が起こってたかなんて覚えてないし。」
「でも…」
「俺なら大丈夫、もう心配かけないから」
そうして俺は2人を説得して、あの時出来なかったことをできるように、2人に心配そうな顔ではなく、笑顔になってもらえるように。
そんな想いを胸に第2の高校生活を迎えるのだった。
俺の名前は田所正光、高校1年生だ。
===To Be continuity===
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【第2話 転生なのか!?】
「田所さん、検温のお時間です。」
そう看護師に言われ、差し出された体温計をわきの下に入れ、
今までのことを振り返る。
昨日までは会社員として働いていたのに、どういうわけかこの高校生「田所正光」になっていた。これってもしかして、今話題の「転生」!?
いや、せめて異世界にしてほしかった。
日付見たら社会人だったころの1週間後に転生って、早すぎない?
世間の情勢も変わってないし、すぐ戻りすぎなのでは??
とはいえ、転生したものはしょうがない。抱えていたタスクもなくなったわけだし、
のんびりベッドの上で過ごそうかね。昨夜は疲れたし…
ーーー昨夜午後7時(転生2時間後)ーーー
「正光っ!!」
と勢いよく、50代前半ぐらいの夫婦らしき男女がこの部屋に入ってきた。
「田所さん、ここは病院です。お気持ちはわかりますが、もう少し静かにしてください。」と先生がその男女に注意した。
…もしかして、この子の両親か?
「正光、良かった!目覚まして!」
大粒の涙を流す、この女性はやはりこの田所正光の母である。田所優子。
隣で安堵の表情を浮かべ、こちらの様子を伺っているのが父、田所浩である。
これらの情報はこの1時間後に知ることになるのだが。
「田所さん、ホントに良かったですね。」
と看護師さんまで、うっすら涙ぐんできた…
…マズイ、非常にマズイ。この感動的なムードをぶち壊しかねない状況に今、立たされている。社会の歯車として今まで生きてきたこの俺に!
下げたくない頭をたくさんしてきた俺なのに!
経験したことのない気まずさが来るなんて…
お二人には申し訳ないが、致し方ない。
「…あ、あの……私、目覚ましてから今までの記憶が一切ないみたいで…自分の名前とか年齢とかも…」
周りの人たちの愕然とした表情は、言葉に表せないなんとも言えない表情だった。
優子はまた大粒の涙を流し、浩は優子の肩をさすりながら
「記憶なんてまた作れば良いじゃないか。生きてるだけまだマシだ。」と励ます。
いや…ほんとスミマセン。
そして、俺は優子と浩に「田所正光」について聞いた。
生年月日から出生地、どんな子だったのか。
そして、なぜこの病室に運ばれてきたのかを。
===To Be continuity===
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【第1話 超合理的高校生「田所正光」誕生】
ーーーまもなく、本ビルの消灯時間となります。作業中の方は速やかにご退出をお願いいたします。ーーー
「……もうこんな時間か…」
都会のビルの高層階。
モニターから放たれるブルーライトと換気扇の音だけが響くフロアの一角で、
一人の男がため息交じりにそうつぶやいた。大手企業のシステムエンジニアとして働く彼を人呼んでこう呼ぶ。ーーー社会の歯車と。
「今月も残業3桁はいってるんだろうなぁ…今月で5か月連続か…あのくそ野郎のせいて、どんでもない案件ほいほいと引き受けやがって、俺だったら断るわこんなん。」
リュックサックに社用PCを詰め込みながら、ぶつぶつと呟くようになってもう1年以上経つ。
そして帰宅は深夜0時を少し過ぎたころ、いつものコンビニで買ったいつもの総菜パン3個と週末は缶ビールとホットスナックの焼き鳥を1本食べて寝る。
なぜ、この組み合わせなのか。
それは、平日は総菜パンのみで税込500円きっかり、週末はそれに缶ビールを合わせると税込700円きっかりと計算がしやすいからだ。正直、1円単位での細かな計算は、はっきり言って時間の無駄。
最近入ってきた、新人の子にもこんなことを言われた。
「え、先輩、毎日同じの食べてるんですか? 新作のラーメンとか食べないんですか?あれ、有名店監修のもと作ってるんで、絶対驚きますよ。」
いや、正直美味しさよりも時間が惜しいから、レジで店員にもたつかれるのもいやだからこの生活を続けている。
そんなある朝、右目の目蓋がけいれんしだした。ネットで調べてみるとどうやらストレスによる影響らしい。
睡眠は少ないながらも最低でも4時間はしっかり寝ているから問題ないと思っていたが。
とはいえ、ただ気になるだけで作業に影響ないので、俺は作業に戻った。
ーーーまもなく、本ビルの消灯時間となります。作業中の方は速やかにご退出をお願いいたします。ーーー
「…お疲れさまでしたっと」
俺はリュックを背負いフロアを後にし、エレベーターホールに向かった。
『終日点検作業中』
そうだ。今日は高層階用エレベーターは定期点検を実施していたわ。
出社時は階段上るのだるかったっけ…
そんな今朝のことを思いながら、階段を下りた。
「…しっかし、あいつのソースなんなんだ。ネストは深くなるような構造してるし、そのせいで終端の「}」抜けてるし、バグ対応も楽じゃないん…!?」
ボーっと今日の振り返りしてよそ見してしまったからだろうか。
階段を1段踏み外してしまった。
ドカドカドダドカドタ…ドンッ!
打ち所が悪く、息を吸い込むだけで身体の節々に激痛が走る。
「早く…どこかへ…連絡を…」
携帯に手を伸ばそうとするものの身体が思うように動かない…
しかしオフィスに残ってたのは、俺1人。
警備員の見回りはもう1時間後であること。
しばらく助けは来なさそうだ…俺はそのまま目を閉じた。
ーーーかすかな明かりを感じた
「…朝を迎えてしまった…のか?」
うっすらと目を開けると部屋の電気が見えた。
あたりを見渡そうにも、やはり身体が動かせない。
でもかすかに、ここが病室であること、ここに俺が運ばれてきたことはわかる。
そこに看護師がやってきた。
俺の顔を見るなり、すぐに「先生!!」と叫びながら出ていった。
その言葉を聞いて、俺は相当な時間目を覚まさなかったんだと悟った。
にしても、こんな状況下でも、我ながら冷静な思考をするもんだ。
だが、看護師が先生を連れて戻ってきたときに、その冷静さはかき消された。
「先生、田所さんが目を覚ましました。」
!?…
田所…!?
===To Be continuity===